よく噛む習慣を身につけよう!咀嚼で食欲をコントロール
古くから「よく噛んで食べろ」と言われる医学的理由
人がものを食べるうえで必ず行う動作の1つが「咀嚼」。
ほとんどの人が「よく噛んで食べなさい」と言われたことが一度はあるのではないかと思いますが、「どうしてよく噛まなければならないのか?」という点を冷静に考えると、あまり明確な答えが出てこない人も多いのではないでしょうか?
パッと思いつく要因としては、よく噛むことで胃の消化の負担を減らすといった点や、咀嚼回数が増えることで顎が丈夫になる、といったことが考えられますが、それ以外にも
・唾液の分泌を促して虫歯や歯周病予防になる。
・脳神経が刺激され、脳の働きが活発になる。
・咀嚼回数が増えることで満腹感が得られ食べ過ぎを抑制。
・唾液中の酵素の働きで食品中の発ガン性物の発がん作用を抑える。
といった働きがあるため、「よく噛んで食べろ」「早食いするな」という教えは理にかなっていると言えるのです。ただし、何かと便利になった現代においては、咀嚼回数が少ない軟らかい食べ物が中心の食事であったり、そもそも食事にかける時間が減っていることなどを背景に、
咀嚼回数の減少は避けられない生活習慣
であることは言うまでもありません。
そうした食習慣の変化に伴い、近年問題視されているのが「肥満」。
厚生労働省のデータでも、早食いの習慣がある人ほど肥満者が多いということが示されておりますが、
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-10-002.html
特に時短や食事の効率化を重視する現代社会においては、軟らかいコンビニフードやファストフードを中心とした食生活によって、高カロリー・高脂質、栄養価が低い食事に偏っているだけでなく、軟らかい食べ物が中心で、咀嚼回数も大幅に減少しているのです。
そこで今回の記事では、そうした食習慣による咀嚼回数の減少が
どのように肥満に結び付いているか?
を詳しくご紹介しながら、咀嚼という動作が脳に与える影響、体全体に与える影響を掘り下げて見ていきます。特に中高年以降に増加傾向にあるメタボリックシンドロームは、
内臓脂肪の蓄積を悪化させる過食や早食いなどの習慣改善が必須
となりますので、今回ご紹介する咀嚼回数と大いに関連性があるトピックとなります。運動しているのに痩せないという方は、この機会に食事の内容だけでなく、食事にかける時間や咀嚼回数などを見直してみると良いでしょう。
食の欧米化による咀嚼回数の減少と満腹感の相関性
ご自身の食習慣を振り返ると良く分かるように、近年では軟らかい食べ物が多く、逆に硬い食べ物を習慣的に摂ることが少なくなってきています。もちろん、食習慣は個人差が大きい部分ではありますが、お仕事が多忙な人ほど、おにぎりやサンドウィッチ、ハンバーガーなどのファストフードで済ませてしまい、
その時の空腹感が紛れれば良い
といった食事になってしまう傾向にあります。
先述のとおり、咀嚼することによって脳神経が刺激され、脳の働きが活発になるとお伝えしましたが、咀嚼と脳の関連性においては、噛むことによって咀嚼筋や舌筋、口蓋筋など多くの筋肉が連動して動くこと、さらにはその筋に張り巡らされた多くの神経が脳からの指示を受けること、そして咀嚼することで食べ物の味覚や嗅覚だけでなく、
五感すべての情報が脳に送られるといった関係性
があるのです。
さらには、脳の前方にある「前頭前野」や記憶の司令塔と呼ばれる「海馬」も活性化されるほか、ストレスの軽減、幸せホルモン「セロトニン」の増加など、咀嚼は単に食べたものを噛み砕くだけでなく、さまざまな脳の働きを活性化する効果もあるということを覚えておくと良いでしょう。
続いて、咀嚼回数の減少と肥満との関連性について見ていきましょう。
ごく日常的な「お腹がすいた」「お腹がいっぱい」という感覚は、胃が指示を出しているわけではなく脳が指令を出しています。こうした食欲のコントロールは、
脳の視床下部と呼ばれる組織にある摂食中枢と満腹中枢が担っており
空腹時には摂食中枢に働きかけて身体に蓄えていた脂肪を分解してエネルギーを作り出そうとしたり、逆に食事を摂ることで血液中のブドウ糖(グルコース)濃度が高くなると、満腹中枢に働きかけて摂食を抑えます。つまり、「お腹がいっぱい」という信号が脳から発せられるのです。
また、咀嚼と満腹中枢との関連性については、咀嚼することで視床下部に存在する睡眠や摂食調節などに関与する
神経ヒスタミンという神経伝達物質が増加
この神経ヒスタミンが満腹中枢を刺激し、食欲を抑えるレプチンというホルモンが分泌されることで満腹感を得られやすくなる、というのが一連のメカニズムになります。つまり、咀嚼回数が少なく早食いの人ほど、
満腹中枢が刺激される前に必要以上の量を食べてしまい肥満になる
という傾向にあり、軟らかい食べ物が多いほど、必然的に咀嚼回数が減って、食べる量が増えてしまうというのが実情なのです。
いくら栄養価が高い効率的な食事でも、満腹感を得られなければ食べる量が増えてしまい、結果的にカロリーオーバーになってしまいますので、時間をかけてゆっくり咀嚼することを心掛けることが重要なのです。
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これまでのご説明のなかで、咀嚼の重要性は理解できたかと思いますが、実際の日常生活において「どれくらい咀嚼すれば良いの?」という疑問が生じてきます。ゆっくりとよく噛むことは、早食い抑制や肥満防止以外にも脳の活性化や虫歯予防など、さまざまな健康的な効果が得られますが、
意識的に咀嚼回数を増やすのは意外と難しい
のが実情で、食べるものによってもバラつきが生じてしまうのが現実です。
咀嚼回数の目安において、厚生労働省は「噛ミング30(カミングサンマル)」運動を提唱していますが、
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0713-10a.pdf
食事一口の都度30回噛むとなると、食事の時間も相当に必要になることから、30回という数値にこだわるのではなく、意識的に歯ごたえのある硬い食材を摂ることを心掛けるのが良いでしょう。また、よく噛まない早食いが習慣化している人ほど、
ビタミン・ミネラル・食物繊維などが豊富な硬い食品を避ける
傾向にあり、栄養が偏って便秘などが多い傾向にあります。
よって、咀嚼回数を増やすという観点では、ゴボウやたけのこなどの食物繊維が多い根菜類は噛む回数が増える代表的な食材であるほか、イカやタコ、アワビなどの魚介類もまた、咀嚼回数が多くなる食材と言えます。食材別には、日本咀嚼学会などが公表する「咀嚼回数ランク表」などを参考に
https://www.jstage.jst.go.jp/article/
cookeryscience/56/4/56_179/_pdf
普段の食生活に咀嚼が増える食材を取り入れることが肝要ですが、それと同時に
・食事の時間が多く取れるよう生活習慣の見直し
・咀嚼の土台となる歯の健康、口腔機能の維持
・規則正しい生活と適度な運動
なども心掛ける必要があります。
現代社会においては、食事を取る時間も制限されやすいことから、どうしても手軽に摂れるファストフードに依存しがちで、そうした食習慣が咀嚼回数を減らし、自然と硬い食品を避けるようになってくる傾向にあります。また、咀嚼が減ることで口腔内の健康も阻害され、歯が弱くなれば必然的に咀嚼を避けるようになってきます。また、咀嚼回数が増え、食べ過ぎを抑制できたとしても、
適度な運動習慣なくして体全体の衰えは避けられません
ので、特に中高年以降は、食事面のコントロールだけでなく、日常生活全体で肥満を防止することが何より重要なのです。
時短や効率化の現代においては、何かとこうした点がおざなりになりがちですが、「なぜしっかり噛む必要があるのか?」という点を再確認して、日々の健康生活の一環として咀嚼回数を増やすということを意識するようにしましょう。